世の中を変えるポテンシャルを秘めたプロダクトと、その誕生秘話を紹介する不定期連載「イノベーションの旗」。原材料は食品廃棄物100%、それでいてコンクリートと匹敵するほどの強度を持つ夢のような新素材が今回の物語だ。大阪・関西万博の展示施設の資材としても採用されている。
fabula(ファーブラ)株式会社は、コンクリートについて研究する東京大学生産技術研究所に、研究員として籍を置く町田紘太CEO(32)が、2021年10月に小学校時代の同級生とともに設立した。年間約472万トン(2022年 出典:https://www.env.go.jp/press/press_03332.html)も排出され、社会問題化する食品廃棄物を100%原材料にした新素材は、各業界で注目されている。町田紘太の歩みと、彼が考える未来像にフォーカスする。
原料は食品廃棄物100%!「食べられるコンクリート」で世界を変える注目企業fabulaの挑戦
世の中を変えるポテンシャルを秘めたプロダクトと、その誕生秘話を紹介する不定期連載「イノベーションの旗」。原料は食品廃棄物100%、にもかかわらずコンクリートと匹...
“硬派な言葉”は、どうも性に合わない
「僕はオプティミスティック、楽観的な人間で、“どうにかなるでしょう”というノリで生きている」と自らを語る町田紘太は、SDGsとかリサイクルとか、“硬派な言葉”を掲げるのは、どうも性に合わない。ごく自然に社会的弱者を含む形で、社会問題を包括する仕組みはできないものかと漠然とした思いを抱いていた。
今も研究員として籍を置く、東京大学のコンクリートの研究室、酒井雄也准教授との「食べられるコンクリートって面白くない?」、そんな雑談がきっかけだった。料理好きの町田は家族4人分の食材から出る野菜くずの多さに、“もったいない…”と忸怩たる思いを抱いていた。酒井准教授の言葉とその思いが重なり、食品廃棄物を原材料に、コンクリート並みの新素材の開発という発想に繋がった。
素材を乾燥、ミキサーで粉砕し粉状にして金型に入れ、熱圧縮して成形する。これまで間伐材とコンクリートを混合した新素材の開発等、研究室での製作工程を踏襲した。身近で手に入る食品廃棄物で次々と試み、やがてオレンジの皮で強度のある、オレンジ色のしっかりオレンジの香りがする板状の素材が完成する。
得られた研究成果を社会問題解決のために応用、展開する、そんな社会実装の視点に立ったとき、スタートアップが現実味を帯びた。町田は信頼できる小学校の同級生とともに2021年10月、起業する。
トライ&エラーは、サイクルが短いほどいい
研究室での町田の功績を大学がメディアに向けて発表すると、自動車業界や建設業界等、多くの業界から提携の相談が寄せられた。町田紘太は言う。
「野菜の切れ端とかミカンの皮とか、誰もが毎日のように捨てている。食品廃棄物は身近なものですから、反響があったのでしょう」
ベンチャーキャプピタルや投資家は将来性を見込んだに違いないが、起業にあたって資金援助を仰がなかったことも町田の判断だ。彼は言う。
「ゆっくりやっていきたかったんです。ファンドからの資金が入ると、運用期限に追われ、意に沿わない製品を世の中に送り出す形になりかねません。自分たちでコントロールして、納得できるものを製品化したかった」
製品開発へのトライ&エラーはサイクルが短いほどいい、それも町田の考えだ。
「スタートアップですからね。やってみて小さな失敗を繰り返す。失敗の数が多いほど成功につながる。例えば失敗することで、熱圧縮の成形に精通した先輩の的確な意見を得ることができます」
東大の研究室に設置された設備や提携工場で、これまで100種類以上の食品廃棄物から板状の新素材を製作。料理に似て原料によって熱圧縮等温度や時間が異なるので、それぞれのレシピを模索した。
とんでもない潜在能力を秘めた白菜
原料の食品廃棄物によって、色も製品からの香りも違う。お茶やコーヒーの使用後のかすは王道のラインナップだ。ミカン、リンゴ、ジャガイモ、お米、パイナップル、トマト、ムラサキイモ、塩こうじ、酒粕。
「トウモロコシは鮮やかな黄色の板に仕上がり、驚きました」
変わったところではカップ麺。これを板状に仕上げてコースターのようにラーメンどんぶりを上に乗せて、イベントで展示。チキンカツ弁当の残飯もトライし、新素材に仕上げている。
驚かされたのは白菜だ。厚さ5ミリの白菜の廃棄物が30kgの負荷に耐えるほど頑丈で、コンクリートの約4倍の曲げの強度という付加価値を持つ素材に生まれ変わった。町田は言う。
「糖度と繊維のバランスが大事なんですね。白菜は繊維が豊富でほどよく甘い。砂糖を熱すると固まりますが、糖分には接着効果があります」
これまで多数の企業の要望に応じて、食品廃棄物からプロトタイプを製作した。例えば2023年にドバイで開催されたイベントで、三菱地所設計が出展した移動可能な茶室兼家具。アラブ圏特有の食品廃棄物の茶がらを原料にして、茶室のジョイント部分を製作した。
関西・大阪万博会場にも採用予定
チョコレートの原料であるカカオ豆、その製造過程で取り除かれる「カカオ豆の皮」は、国内でも年間5000トンに及ぶ。この有効利用を模索していた明治はfabulaと共創をスタート。手始めにシンプルなプレートを試作、その後もプロジェクトは続いた。
人類の未来が主なテーマの4月13日開催の大阪・関西万博と、食品廃棄物100%の新素材はベストなマッチングだ。fabulaの技術により、カカオ豆の皮「カカオハスク」を原料に、板状に成型した製品が万博会場内の「ギャラリーwest」の建材に採用される予定だ。
建築資材はカカオハスクだけではない。昭和産業は同社の副産物である菜種粕やコーングルテンミールを原料として提供。fabulaの技術で板状に成型され、これも同じ施設の建材として活用される。
町田紘太は言う。
「将来的にこの新素材は、建材として利用するのがいいんじゃないか。今回、大阪・関西万博では建物のごく一部の資材を納品したのですが、それでも100トン近い原料を使いました。国内だけで年間470万トン以上といわれる食品廃棄物の量をさばくパワーが、建材にはあります」
新素材の可能性は限りない
内装用の建材としてポテンシャルは高いが、新素材の弱点は水に弱い点。万博施設での資材としての使用も、雨を防ぐ処置がなされている。現在、屋外環境にも耐えられる撥水加工を模索中だ。
町田は言う。
「水分といえば、食品廃棄物は水分が多くて、運ぶのにお金がかかるんです。食品廃棄物を入れたら、自動的に製品が作れる製造装置を開発して、いろんなところに配置したい。打ち合わせ中に飲んだコーヒー豆の抽出カスをアクセサリーにして、お土産に渡せるとか」
未利用資源の新素材化を体験する、子供向けのワークショップも、過去に30回以上開催している。
アクセサリーはもちろん、サイドテーブル、腰かけ等の家具、アート作品等々、食品廃棄物由来の新素材の可能性は限りない。
ゴミと呼ばれる未利用資源を価値化し、その新素材の用途をより鮮明にしていくのが、起業家の仕事と自覚する町田紘太は言う。
「食品廃棄物由来の新素材が、みんなのやりたいビジネスに成長させたいですね」
取材・文/根岸康雄